中部支部(早化会)第5回交流講演会での保谷敬夫氏氏の講演要旨

2010年9月10日(金)に名古屋ダイヤビル271号室で行われた保谷敬夫氏の講演会の講演要旨です。

環境からみた車両用樹脂材料開発の動向

1 自動車を取り巻く環境
 日本の総CO2排出量は、2007年度で13億トン。このうち約2割が運輸部門、即ち車からの排出となっている。車のライフサイクルにおけるCO2発生量をみると、燃費の向上即ち車両重量の削減とPHEVやEVの普及が喫緊の課題である。
2 自動車用材料の推移と主な部品の樹脂化推移
 1980年代の初頭にPP複合材(PP+タルク+ゴム)の自動車バンパーへの適用が引き金となり、一気に樹脂化の流れが起きた。自動車の原料中に占めるプラスチック使用量は2007年度で8.3%wt(30%vol)、現時点で約10%wtまで進んでいる.この半分をPPが占めており、低価格と高い比剛性(曲げ)及び成型性の良い事が主な理由である。
 各材料の比剛性の値は、高張力鋼<PP≦PA-GF≦AL<Mg≪CFRPであり、特に、CFRPは比強度・比剛性とも高張力鋼に比べずば抜けて高く、理想的な代替材と言えるが、どのように使いこなすかが課題となっている。
3 CO2削減に向けた軽量化による燃費向上の取り組み

3-1 鋼板の代替
 軽量化によるCO2削減量を大胆に推算すると、鋼板と等価剛性を持つPP複合材の重量は鋼板の60%wtであるので、例えば、重量が1400kgの車を10%wt樹脂化すると93kgの軽量化が可能で、これによる燃費改良は6%になる。これは約1,300万トンのCO2削減に寄与する事となる。
 PP複合材は、耐衝撃性を保持したまま高剛性化、高流動化の改良が行われ、バンパーでは、板厚3.8mm→2.5mm迄薄肉化され且つ成型時の流動性は3倍まで改良されている。 又、二―トPPとして、HOMOグレード 、高剛性を持つ高結晶グレードとハイインパクト性能を持つ共重合グレードを揃えた事が、外装板に加え、インパネやエンジン室部品の樹脂化に繋がり、樹脂使用量の半分を占めるに至った要因でもある。
 欧州では、既に「Smart For Two」という外装板が全てPP複合材で作られた車が発売されているように、外板フェンダーの樹脂化が進んでおり、この為全樹脂化率は13%wt迄上がっている。
 日本では鋼板の品質が良い為、フェンダーの樹脂化が遅れ気味であったが、昨今、ボディシェイプに丸みやシャープな形状が要求され、鋼板の加工に手間がかかるようになった事と更なる軽量化の要求が強くなってきた事で外装の樹脂化が進み始めた。

3-2 アルミダイキャストの代替
 アルミは「湯流れ」が悪い為薄肉化に難が有る。アルミダイキャスト部品の樹脂化による軽量化は20—50%wt、車全体として2—3kgの削減が既に行われている。エンジン室内の部品が主な対象で、エアーインテークマニホ−ルド、エンジンのヘッドカバー、ドアーミラーの押え及びレギュレーターのカバー等が代替された。エアーインテークマニホールドのような中空製品の接着法には振動溶着、射出溶着と溶融中子法が有り振動溶着法が主流である。
 車のIT化が進むにつれ、今後はコンピューターユニットのボックスの樹脂化が期待されている。普通車で30—40ユニット、高級車では100にもおよぶユニットが積載されている。

3-3 モジュール化による軽量化
 欧州で開発された手法で、隣の部品を揃えた(共有化して)モジュール(集合体)を部品工場で組立て自動車メーカーに納める方法である。
   欧州では人件費カットを狙って採用されたが、モジュール化により、部品点数の削減、組み立てラインでの組込みスペースの削減とコンパクト化、作業工数削減及びガソリンタンクモジュール例のように蒸発ロスの削減などの性能向上により結果的に軽量化が達成出来た事から、各社そろって力を入れている。
 自動車メーカーは、モジュールの互換性よる低価格化を避けるために、各社各様の独自性のあるモジュール化に取り組んでいる。モジュール化の例として、日産スカイラインのフロントエンドモジュール、三菱のコンパクトクーリングモジュール、コックピットモジュール、バックドモジュール、ドアーモジュール、ガソリンタンクモジュール及び吸気モジュール等々の紹介があった。軽量化率はモジュールにより異なるが15—30%wtである。

4.PHEV、EVの普及に向けて熱マネージメントへの取組み
 PHEVとEVの最大の課題は、スタート時の車体の加熱と走行時の車内の冷暖房のエネルギーを積載している電池より供給を受けなければならない事である。冬場走行では暖房に電池エネルギーの半分程度を使用する為、走行距離が大幅に落ちてしまう結果となっている。 熱エネルギー消費を少なくする上で、樹脂化は、車体の「低熱容量化」と「断熱化」に極めて効果的である。三菱化学は、PHEVとEVの普及に向け、樹脂化による軽量化と消費熱エネルギーの削減に加え太陽電池を積載することで約30%のエネルギー節約を目標にした研究に取り組んでいる。

5.更なる軽量化、熱マネージメントの取組み

5-1 窓ガラスの樹脂化による軽量化・熱放散削減
 熱放散量の最も多い窓ガラスの樹脂化は2000年より欧州で始まり、欧州ではその後も継続的に進められている。日本では日産やトヨタの1~2車に適用されたのみでその後進展して来なかったが、今年あたりから樹脂化の動きが出てきた。
 樹脂ガラスはPCに、ハードコートや熱線反射等などの特殊コーティングして用いられる。

5-2 高発泡化による軽量化・断熱化
 軽量化と断熱化が同時に可能となる成型部品で、PP或いは繊維強化PPを射出・圧縮成型後金型を開き発泡させる成型法で、例としてホンダ車のドアートリムの紹介があった。発泡倍率は現状1.4倍程度、目標は2~3倍を目指している。

5-3 起毛発泡による軽量化・断熱化・遮音化
 PPとガラス長繊維で構成されたシート複合材を加熱膨張させた後、低圧で圧縮成型したもの。ガラス繊維と気泡が均一に絡み合っている為、軽量で強度と剛性も高い上に、気泡が連続して分布している為吸音効果も高くロードノイズの吸収目的で車のアンダーカバーに使用されている。

5-4 炭素繊維複合材への期待
 高性能のCFRPを使用するには、高強度性能のPAN系と高剛性性能のピッチ系の両方を組み合わせて使う事が必要。CFの持つ欠点、@コストが高い事、A熱硬化システムでは硬化速度が遅すぎる事(エポキシ硬化で10分程度)をカバーする為、各社の開発研究は成型サイクル1分以下を狙った熱可塑樹脂とのマトリックスを主体にした方向で進んでいる。
 この場合、鋼板と等剛性にした時の各樹脂のCFRTP(CF添加板)の重量逓減率はCF添加0.3vol比で頭を打つので添加量は多くを必要としない。 特に、CFの微量添加(100gr/m2)で鋼板並みの線膨張率へ低下させられる所から、熱膨張許容幅の小さい部位を含めた外装板用途として、繊維量のMin.化を含めたCFRTPの開発が進んでいる。

6.カーボンニュートラル化へ向けた植物由来樹脂への取り組み
 植物由来樹脂は、従来から天然繊維の強化材としての利用や、ポリアミド11、610があったが、ポリ乳酸(PLA)の量産化によって、自動車部品への適用検討が加速された。PLAは耐衝撃性が低く、元来加水分解を受けやすいところから、PPとのポリマーアロイやステレオコンプレックスが開発されている。その他にポリブチレンサクシネート(PBS)やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)などがある。
 最大の樹脂のカーボンニュートラル化はバイオプロピレンの製造であるが、植物より直接プロパノール経由PPを製造する発酵プロセスは未だ基礎研究の段階である。

                                                              (文責 堤 正之)

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